一般講演8

翻訳伸長因子を用いた生命の初期進化の解析

○金武舞・横堀伸一・山岸明彦
東京薬科大学大学院生命科学研究科 生命科学専攻
  翻訳伸長因子EF-1α/EF-2とEF-Tu/EF-Gは、同じタンパク質から分化してできたファミリーと考えられ、その分岐は全生物の共通祖先が真核生物、真正細菌、古細菌に分かれる前に生じたと考えられることから、全生物の共通祖先の位置決定に使われてきた。例えば、Iwabeら(1989: PNAS 86: 9355-9359)はEF-1α/EF-2とEF-Tu/EF-Gの複合系統樹から、古細菌が真核生物の姉妹群であることを示唆した。
  生命の初期進化について、Woeseら(1990)は16S/18S rRNAの配列を基に作製した全生物の有根系統樹に基づき、全生物を、真核生物、真正細菌、古細菌の3ドメインに分類した。一方、Lakeら(1992)は一次配列の変化に比べて、配列の挿入や欠失が稀な現象であることに注目し、遺伝子やタンパク質配列の中のインデル(indel、挿入insertionと欠失deletion)の有無を指標として全生物の系統関係を議論した。この手法において、古細菌の中でもEocyte(ほぼCrenarchaeotaに相当する)の仲間は真核生物と単系統群となり、メタン細菌や高度好塩菌(Euryarchaeota)はその姉妹群となることが示唆された。このEocyte説では、Woeseらの3ドメイン説とは異なり、真核生物は古細菌の群内群であり、古細菌は側系統である。
  我々は、生命の初期進化がどのような道筋を辿ったのか、また全生物の共通の祖先がどのような性質を持った生物だったのかを推定するべく、研究を進めている。そこで全ゲノム配列の報告がある生物から、真核生物種38種、古細菌22種、真正細菌56種、計116種を選び、これをベースとして、様々なタンパク質を用いて系統樹を作製し全生物の共通祖先の系統学的位置の推定を行っている。また、祖先配列推定を行い、それに基づいたタンパク質を作製し、全生物の共通祖先がどのような生物であったのかについて調べている。
  本研究では、これらの研究の一環として行っているEF-1α/EF-2とEF-Tu/EF-Gに基づく分子系統解析の再検討に関して、真核生物の関係性や全生物の共通祖先の解析のために、アライメントのindel(一次配列に見られる挿入(insertion)と欠失(deletion))を用いた系統樹の再解析をし、さらに伸長因子の一次配列からの分子系統解析によって得られた結果と比較を行っている。本報告ではその進展状況について報告する。