2011年生命の起源および進化学会 夏の学校:総括

薮田ひかる(2011年度世話人i
大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-1
E-mail: hyabuta@ess.sci.osaka-u.ac.jp



   2011年生命の起源および進化学会夏の学校は、9月3・4日、大阪大学豊中キャンパスで開催された。参加者29人(阪大14、東大3、神戸大2、名大2、広大1、東北大1、横国大1、長岡技術科学大1、金沢大1、国立天文台1、奈良工業高専1、友の会1)、うち学生は24人と、非常に実り多い研究交流会となった。幹事の坂田霞さんと松本徹さん(共に、大阪大学理学研究科博士課程1年)を中心に、阪大の学生の皆さんには事前準備から当日の運営まで積極的に協力いただいた。
     招待講義には、長沼毅先生(広島大)と福江翼先生(国立天文台)をお迎えし、長沼先生には生命の起原と地球外生命の可能性、福江先生には星形成領域における円偏光観測とホモキラリティーについて、講じていただいた。長沼先生の講義後には、学生達が次々と質問に集まり、福江先生の講義では、予定していた時間を超えるほどの活発な質疑で盛り上がった。学生の研究分野は、化学進化室内実験(海底熱水系・ガスハイドレート・光化学)、気候モデル計算、隕石物質科学(有機ナノグロビュール・非晶質ケイ酸塩・鉱物-水-有機物相互作用)、隕石衝突模擬実験、プレカンブリア紀同位体地球化学、と例年以上に多岐に渡り、のびやかな発表が続いた。個性的なスピーチでは、博士研究員の北台紀夫さん(金沢大)による「生命の起源なんて研究して一体何になるんだろうか」。一見どきっとするような題ではあったが、生命の起源に関わってまもない学生をはじめ、大人の研究者でもふと考えたことがあるだろう問いを、この分野に対し前向きな立場からあえて表に提供してくれた。数人の教員との意見交換がなされ、学生達も興味深く聴いていたようであった。
     実は、この2日間に限って、大阪の天気予報は“暴風雨マーク”。嵐を呼ぶ学校と化する予報は的中し、1日目に予定していたバーベキューは、残念ながらキャンセルせざるをえなかった。が、松本くんがとっさの機転で、屋内でのお好み焼き&たこ焼きパーティーという、いかにも大阪らしいお楽しみを提案してくれ、その準備の手際良さ、仲間のチームワークといったらなんとも頼もしい限りであった。また、参加者の自己紹介用にと、坂田さんが某テレビ番組風のサイコロを用意してくれたり、親しみのわく工夫が加えられた要旨集を作成したりしてくれた。これらの諸企画は特に好評で、初対面の参加者同士が笑顔で打ち解け合うのに一役、二役も買っていた。
     2日目の午後には、阪大の蔡承亨くん(修士課程1年)の提案でグループ・ディスカッションを行い、夏の学校に参加した感想や意見を出し合ってもらった。その結果、良かった点としては、アットホームな規模で意見を出しやすい雰囲気、色々な分野からの学生の参加、上述の親睦行事、などが挙がった。他方で、もっと学生主体の会にしたい、グループワークをしたい、夜まで行事があると良い(宿泊地兼会場として利用できる場所が望ましい)、旅費を出してほしい、といった声もあった。こういった尊い意見は、学生達の研究意欲の高さを窺わせるもので、将来へぜひ反映させるべきである。 ちなみに、私が学生だった10数年前は、生命の起源夏の学校といえば、一番に思い出されるのは、バーベキュー、花火、肝だめし、海水浴、カラオケ・・・正直、遊びの行事ばかりなのだが、この違いはなんだろう。おそらくは、今日ではアストロバイオロジーという学際領域が確立し、生命の起源への探究心を育てる研究環境・研究手法・情報環境が豊かになってきたことによって、研究への取り組み姿勢がしっかりしている学生が増えてきた表れではないかと思われる。
     ただ、時代は進歩しながらも、親睦を重視してきたアットホームな雰囲気は、大規模学会とはひと味異なる、生命の起源夏の学校の大切な伝統でもあると思う。人と人との信頼関係から始まるサイエンスは、優れた技術と能力が集められたトップ集団よりも、強い!と今でも信じている私は、従来からの夏の学校のような、ソーシャルでゆったりした研究環境で育った影響が大きいのかもしれない。 今回は初参加で聴講だけだった学生も、会の終わりには「なんだか、自分の研究のこと話したくなってきました」「次回は発表できると思います」「ギリギリに申し込んだけれど、参加して良かったです」と、嬉しい声を伝えに来てくれた。 開催地の阪大も含めて、今回は、これまで参加したことがなかった大学・研究室からの参加が得られた点でコミュニティが広がるきっかけとなり、新鮮さが増して大変喜ばしかった。と同時に、毎年参加している研究室の学生達によるリードがもし加われば、互いに刺激を与え合う関係が生まれ、若手の会は一層発展し続けることができるように思う。今回来ることができなかった皆さんにも、次回はぜひご参加いただけることを願っている。

    本学校の様子の記録(要旨集・写真)は、夏の学校ホームページ(http://www.origin-life.gr.jp/summer_school/index.html)に掲載されています。
     台風の中、ご足労くださった参加者の皆様には、本当にありがとうございました。夏の学校運営委員の今井栄一先生(長岡技大)、夏の学校専用ホームページを新たに開設くださった江藤浩子氏(京大原子炉)には大変お世話になりました。心よりお礼申し上げます。

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