Viva Origino Vol.43 No.2
Organic compounds in the universe and Origins life

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MITA Hajime
Department of Life, Environment and Material Science, Fukuoka Institute of Technology
Wajiro-higashi, Higashi-Ku, Fukuoka, Nippon, 811-0295
Email: mita@fit.ac.jp, FAX: 092-606-0728
(Received 22 July, 2014, Accepted 26 December, 2015)

Abstract
  Although origins of Life is an interesting and important study area, there are many mysterious points. The 1st life on the Earth might be composed with organic compounds delivered from the universe. In this text, distribution and evolution of organic compounds in the universe are roughly overviewed. Japanese space exploration project "Hayabusa" and Japanese astrobiology experiments on the international space station "Tanpopo" were introduced from the point of Origins of life.

Keywords: キーワード 生命の起源、アミノ酸、炭素質隕石、はやぶさ粒子、たんぽぽ実験




宇宙からつながる生命の起源

三田 肇

福岡工業大学・工学部・生命環境科学科
811-0295 福岡県福岡市東区和白東3-30-1

1.はじめに

  平成15年5月9日に、鹿児島県内之浦から、M-Vロケット5号機により、工学試験衛星「Musec-C」が打ち上げられ、小惑星「1998SF36(後にイトカワと命名された)」に向けた小惑星探査機「はやぶさ」が旅立った。平成17年9月12日には、「イトカワ」に到着し、可視光での撮影[1]、近赤外線スペクトルの測定[2]、蛍光X線[3]の観測などのリモートセンシング技術による様々な観測が約2か月半にわたって行われ、小惑星上に着陸し表層試料の採取が試みられた。そして、様々なトラブルに見舞われながら、当初の計画より3年遅れではあったが、平成22年6月13日に地球にサンプルカプセルを持ち帰ることができた。そのサンプルカプセルの中には、微粒子が約1500個入っていることがわかり、化学分析が行われた。「はやぶさ」の成功を受けて、平成26年11月30日に、H-IIロケットにより、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「1999JU3」に向けて打ち上がられた。「はやぶさ2」は、目的地「1999JU3」に平成30年に到着し18カ月間の表層サンプルの回収を含む探査を行い、平成32年に地球に帰還する予定になっている。
   日本人の手による宇宙環境における地球外物質採取の試みとしては、「たんぽぽ」計画も存在する。これは、国際宇宙ステーション(ISS)の暴露部にエアロゲルと呼ばれる非常に軽い(低密度)の物質を設置し、この中に宇宙空間を浮遊しているミクロンスケールの塵である宇宙塵を捕獲しようというものである。この実験装置は、平成25年4月15日にアメリカ・スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられたドラゴン補給船6号機で国際宇宙ステーションに届けられ、5月よりエアロゲルを宇宙環境に暴露し、ISS軌道上に浮遊する宇宙塵試料の採取が開始されている。約1年後に船内に回収され、捕集された宇宙塵試料が地球に持ち帰られ分析に供される予定になっている。
   これら以外の宇宙環境での地球外物質の回収実験としてもっとも有名なものは、1970年代に行われたアポロとルナによる月の石の採取であろう。アポロ試料の分析から、アミノ酸の検出などが行われている[4-6]。アポロ・ルナ以降は、暫く、宇宙環境での地球外物質の採取は行われていなかったが、平成2006年にアメリカのスターダスト探査機がヴィルト第二彗星から吹き出す彗星塵の採取・回収に成功し、再び、宇宙環境での地球外物質採取が注目されるようになった[7-9]。現在、世界各国によりいくつかの地球外物質のサンプルリターン計画が企画されている。一方、地球上でも地球外物質の採取は行われている。すなわち、地球に降り注いだ隕石や宇宙塵である。ところで、なぜ、宇宙物質の採取が注目されるのであろうか。はじめに、太陽系の成因の歴史をたどってみる(Fig. 1)[10]。太陽系が生まれたのは約45.6億年前である。太陽系を形成する原料である微粒子(宇宙塵)が集まり、中心に原始太陽が生まれその周囲を塵が回転運動することで、円盤状に塵が集まった。そして、引力により塵と塵が集積し、微惑星が形成される。さらに、微惑星と微惑星が集積を繰り返し、小惑星、さらに惑星が生まれ、現在の太陽系となった。地球のような惑星は、その重力により収縮し、内部からの発熱により高温状態を経験している。密度の高い金属部分は沈む込み、核を形成し、岩石質の液体はマントルとなり、表面が冷えて固まると玄武岩のような火成岩が表層を覆うような分化が起こる。さらに、揮発性の分子の揮散が起こり原始大気が生まれる。一方で、小惑星は材料の集積が少ないので惑星形成時のような高温状態には達しないため、分化があまり起こっていない では、原始太陽系を形成した星間分子雲由来の有機物、原始太陽系星雲中の小惑星上などで合成された有機物、原始地球が生成する過程で集積した原始惑星に含まれる有機物など、物質の進化過程の異なる有機物組成を明らかにすることができる。
   本稿では、生命の源になった有機物が、宇宙・太陽系の歴史の中でどのように生まれて、変化してきたのか、生命の起源と宇宙のかかわりについて概観する。

fig1
Fig. 1 Schematic diagram of solar system formation

2.化学進化

  生物体を構成する物質は有機物であり、もともとは生物活動によってのみ合成される化合物と考えられ、自然界で生物活動に依らず合成される無機物と区別されてきた。そこで、OparinやHaldaneによる化学進化の仮説[11-12]が提唱された。この仮説に依れば、地球上の生命の誕生の前に簡単な有機物が誕生し、複雑で機能をもった有機物へと進化していくことになり、人工的な有機化学反応とは別な意味での非生物的な有機物合成が自然界で進行しなければならないことになる。1953年にMillerによって、原始地球環境を模擬した環境でアミノ酸などの有機物が生成されることが実験的に示され[13]、化学進化の実験的検証に関する研究が始まった。現在までに、多くの研究者らにより、様々な原始地球環境や宇宙環境を模擬した実験系において非生物的に多様な有機物が合成されることが実証されている。ところで、その有機物の合成反応は原始地球上で起きた現象なのか、それとも宇宙環境で起きた現象なのかという点については大きく意見が分かれている。一方、地球外で生まれた生命体が地球に運ばれて、地球上の生命の源になったという考え方もある。但し、この場合も、その源になる生命体が地球外のどこでどのように誕生したのかを考える必要がある。そこで、宇宙環境にどのような有機物が存在し、生命の誕生に必要な有機物がどの程度揃うのかどうかを調べることが行われている。おそらく、原始太陽系を形成した星間分子雲由来の有機物、原始太陽系星雲中で合成された有機物、原始地球が生成する過程で集積した原始惑星に含まれる有機物が、隕石や彗星などにより原始地球に供給されその後、それらが原料となりさらに原始地球上の火山活動や放電現象などによって様々な有機物が生成し、それらが組み合わさり生命の誕生に結びついていったものであろう。しかし、どんな有機物が宇宙起源なのか原始地球起源なのかや、それらの生命の起源に及ぼす寄与の割合などの知見は得られていない。

3.宇宙の有機物

  電波天文学により、星と星の間に、星間物質が豊富な星間分子雲と呼ばれる領域が存在する。この領域には、シアン化水素、メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、メチルアミンなどのごく簡単な有機物、ベンゼンのような環状有機物や、地球上では存在しえないような構造の有機物など、約150種の有機物も検出されている(Table 1)[14]。この星間分子雲の領域は極低温であり、ケイ酸塩鉱物を主体とした核に、凝結した氷が取り囲んでいると考えられ[15]、その氷に取り込まれたCO、メタノール、アンモニアなどに紫外線や放射線が照射されることで、簡単な有機物が生成されていったものと考えられている。電波天文学の観測では、揮発する成分でないと検出できないが、ケイ酸塩鉱物の核の上には、揮発しない複雑な有機物の存在も考えられている。そして、このような環境を模擬した実験での生成物を加水分解することでアミノ酸が検出されることも報告されている[16-17]。

Table 1 Major amino acids detected in carbonecious chondrites.
table1
   この分子雲は、自身の重力により収縮し、密度が上がるとともに、温度も上昇し、次第に中心部では核融合が始まり恒星が生まれることになる。そして、前述したように、恒星の周辺では微惑星・小惑星・惑星が生まれる。星間分子雲に存在した有機物が、ガスや塵として原始太陽系星雲中にもたらされてことになる。さらに、原始太陽系星雲中の高温環境で凝集した鉱物などを触媒とした有機物の生成や、凝集・集積が進み誕生した小惑星上における水熱反応により有機物の生成・変成なども起こった。これらの有機物が混じり合って地球にもたらされたと考えられているのが始原的な炭素質隕石である。炭素質隕石中には、アミノ酸・カルボン酸・炭化水素など非常に多くの有機物が検出されている[18-24]。また、小惑星よりも低温環境で形成したと考えられている彗星には、隕石中に含まれているより古い時期の有機物が含まれていると考えられており、実際に彗星から放出された塵(いわゆる彗星の尾)の分光分析や「Stardust」計画での彗星から放出された塵を直接捕集し分析した結果などから、有機物の確認がなされている[7-9]。
   生命の起源を考える上で、種々の有機物の中で、特にアミノ酸が注目をあびている。アミノ酸は、生体中において最も豊富に含まれていて、生命活動に不可欠な機能性高分子化合物であるタンパク質を構成する分子であり、分析が容易なこともあり、多くの研究がなされている。1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石中から隕石固有のアミノ酸が発見されたのを契機に、その後も多くの炭素質隕石中のアミノ酸分析が行われている[18-21]。さらに、アポロ計画において月の表面から回収された岩石試料中の有機物分析で、アミノ酸が存在することが確かめられている[4-6]。また、「Stardust」計画で捕集された彗星から放出された塵試料からも最も簡単なアミノ酸であるグリシンが検出されている[9]。特に、炭素質隕石に関する研究は多く、主な炭素質隕石から検出されたアミノ酸含量をTable 2に示した。様々な異性体が検出されており、地球上の生物体にはほとんど含まれていないアミノ酸も多数見つかっている。それらの量比を調べてみると、生物体を構成するアミノ酸との関連は見出されていない。一方で、炭素含量が高いにもかかわらずアミノ酸が検出されていない炭素質隕石も見つかっており、隕石母天体上での水熱変成作用の相違が原因と考えられており、隕石母天体上での履歴を明らかにすることが重要とされている。また、炭素質隕石に加えて、月の石、彗星塵など様々な宇宙試料からアミノ酸は検出されている。星間分子雲内では、アミノ酸の存在は難揮発物質であるためにまだ確認されていないが、その前駆物質であるメチルアミンの検出は報告されており、おそらくアミノ酸も存在するものと考えられている[25]。このようなことから、単にアミノ酸の有無を調べる研究から、アミノ酸の光学異性体の偏りや、隕石母天体上での水熱変成作用の推定が、研究の中心になりつつある。
   光学異性体比の偏りに関しては、地球生物中のアミノ酸の多くがL-体からなるが、炭素質隕石中のアミノ酸はラセミ体であり、L-体からなる世界がどのように生まれたのかが大きな謎となっている。近年、炭素質隕石中からイソバリンなどのジアルキルアミノ酸にL-体過剰があることが見出された[26-27]。このことから、宇宙環境にL-体過剰になる要因があると考えられている。中でも、中性子星からの放射光による円偏光が注目されている。また、星生成領域において赤外波長であるが円偏光の存在も検出されている[28]。一方で、L-イソバリンのCDスペクトルの特徴がL-アラニンなどと一致せず[29]、ジアルキルアミノ酸で見出された光学異性体の偏りが本当に地球生物のL-体過剰に結びつくのか課題もある。 最後に注意をしなければいけない点は、炭素質隕石や月試料などに必ずしもアミノ酸そのものが含まれているのではなく、酸加水分解をすることによりアミノ酸が検出されるアミノ酸前駆体が含まれているということである。加水分解の結果、アミノ酸が検出されたということである。そして、アミノ酸前駆体として、低分子の有機物を考えている研究者と、構造の特定が困難な高分子量の複雑有機物を想定している研究者に分かれており、それらの寄与などについては明らかにされていない。

4.小惑星試料の採取「はやぶさ」と有機物

    小惑星「イトカワ」を訪れた探査機「はやぶさ」は、最大でも300 μm程度ではあるが、1000個以上の小惑星由来と考えられる粒子を回収し、地球に帰還した。微粒子のうち約50個について初期分析が行われ、明らかに地球物質とは異なる組成をした小惑星の粒子が得られた。さらにみると、これまでに地球で採取されていた隕石の分類でいうLL4-6というタイプの隕石と、化学組成や岩石組成が一致した。これまで考えられていたように、隕石は小惑星のかけらであることが実証されたことになる[30-33]。さらに、「イトカワ」の履歴として、10 kmくらいの小惑星で中心部が数百度まで熱せられて変成した後に、衝突破壊により壊れたものがいくつか集まって生まれたことも判明した。一方で、地球上からの小惑星観察と隕石の分析の結果が、良く類似しているものの反射スペクトルが完全に一致しておらず、これが太陽風による宇宙風化と呼ばれる現象によるものであることも明らかになった[34-35]。
   有機物の分析は、溶媒抽出液を加水分解した試料は2次元HPLCを利用したアミノ酸分析、残りの試料はTOF-MS分析が行われた[36]。アミノ酸分析では、グリシンとアラニンの微小なピークを検出したが、コントロール実験と同程度のグリシン・アラニンが検出されたのみであり、実験操作中のコンタミであると考えられた。一方、これまでにアミノ酸が検出されている炭素質隕石で同じくらいの微粒子について分析を行ったところ、有意なアミノ酸を検出し、分析方法は不適切なものではないことが確認された。TOF-SIMSの分析でも、コントロール試料と比較して異なるシグナルを検出することはできなかった。これらの分析結果から、有機物が皆無であるとの証明はできないが、明らかな小惑星の有機物は見出されなかったという結論に達した。これは、先に述べたが「イトカワ」がLL4-6という隕石の母天体であることがわかり、LL4-6タイプの隕石からはアミノ酸や有機物が検出されていないことから考えると調和的でな結果であった。
   現在、小惑星「1999JU3」に向けて飛行を続けている「はやぶさ2号機」では、「生命の起原の解明」というキーワードが科学目標の一つに掲げれている。ここでは、アミノ酸などの有機物が検出されている炭素質隕石の故郷と考えられているC型小惑星である「1999JU3」を訪れることになっている。生命の起源を考える立場からすると、「はやぶさ2号機」が持ち帰る試料の分析結果が非常に興味深い。

5.動き始めたアストロバイオロジー実験「たんぽぽ」

5.1. 概要
    現在、生命体や生命の源となる有機物の宇宙空間における移動の可能性を探るため国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の船外暴露プラットフォームを利用した「たんぽぽ」計画と名づけられたアストロバイオロジー実験が、平成27年5月より開始された。この実験では、1)火山爆発などにより舞い上げられた粒子を捕集し、その中に微生物が含まれるかを確かめる。2)微生物などを宇宙空間に暴露し、宇宙空間を微生物が移動しえるか否かを調べる。3)宇宙塵を捕集し、その中に含まれる有機物の分析を行う。4)有機物を宇宙空間に暴露し、その安定性や変成を調べる。5)微生物や宇宙地塵を捕集するための超低密度エアロゲルを開発する。6)宇宙空間に漂うデブリを捕集し、その分布を調べる。という、6つのサブテーマを取り上げている[37-38]。
   これまでに、飛行機や気球を用いた実験で、高度58 kmのより生きた微生物が捕集されている。これらの微生物はいづれも紫外線や放射線に耐性のある微生物であった。これら微生物の高度分布を国際宇宙ステーションの高度である400 kmまで外挿すると10-6 - 10-4個/m3程度の微生物が存在することが期待されている。そこからISS軌道上で1年間の捕集を行うと104個程度の微生物を捕集できると見積もられている。地球から火山などの作用で宇宙空間へ微生物が放出される可能性を確かめる。また、真空や紫外線・宇宙線への微生物の照射実験から、微生物が1個だけ存在する状態では生存が難しいが、群集で存在していたり、粘土などの中に存在している場合には、宇宙空間でも生存する可能性があることが期待されている。そこで、実際に宇宙空間で微生物を暴露し、微生物が生存可能なことを確認し、宇宙空間を微生物が移動する可能性を調べることを目指している。
   一方、宇宙空間に静止状態で漂っている舞い上げられた地球からの塵や宇宙塵は、静止状態であったとしても、国際宇宙ステーションが約6 km/sで飛行しているので、捕獲時の衝撃が大きい。そこで、世界最高レベルの低密度エアロゲルを開発し、その中に穏やかに捕集することを目指している。0.01 g/mLのエアロゲルを0.03 g/mLで取り囲んだ二重構造のエアロゲルを作成し、二段式軽ガス銃を用いた捕集実験でその捕集能力を確認している。このエアロゲルを、国際宇宙ステーションの正面・地球面・宇宙面に配置することで、主に正面では様々な粒子を、地球面では地球からの塵を、宇宙面では宇宙塵を捕集できることになる。捕集された微粒子の中には、人工物である宇宙デブリも捕集されるであろうが、この分布を明らかにすることは、今後の宇宙開発を進める上での重要な知見となる。
5.2. 有機物
  宇宙から届けられる物質として、隕石は有名であるが、そのほとんどが大気圏突入時の摩擦熱で燃え尽きて地上まで届くものは多くない。しかし、数十μm以下の宇宙塵は、大気圏の摩擦や地表衝突時の衝撃をほとんど受けることがなく、地上まで達しており、その質量は1年間に数万トンと見積もられている。そして、宇宙塵は、炭素質隕石に比べ始原的なものが多く、地上に多くの有機物を供給したと考えれれている[39]。しかし、地球生物の汚染を受けるため、地上に落下した宇宙塵の有機物分析は困難である。そこで、地球上の生物の汚染を受けていない宇宙塵を国際宇宙ステーション上で採取することに意義がある。特に、タンパク質アミノ酸の光学異性体比の偏りを調べるためには、僅かな地球の生物の汚染も避けなければならず、汚染のないきれいな試料の取得が望まれている。
    「たんぽぽ計画」で捕獲される粒子は、数十μmサイズ程度の宇宙塵が、年間50個程度と見積もられている。これらの中に含まれている有機物分析には、サイズが小さいことから、炭素質隕石と同様の抽出性有機物の分析は難しく、Stardust計画と同様の微小分析を行う必要がある。
    そこで、アミノ酸とその光学異性体比の測定は、イトカワ粒子の分析に用いた超高感度2次元HPLCを用いる。これは、1次元目でアミノ酸の分離を行い、2次元目で光学異性体の分離を行うというものであり、2次元にすることでバックグラウンドシグナルを低減させることができる[40]。そして、fmolオーダーの分析が可能になっている。炭素質隕石の中に含まれている有機物の大部分は不溶性の高分子量物質であることから、顕微赤外分光分析、顕微ラマン分光分析、X線吸収端近傍微細構造分析を用いた局所分析による官能基分析を取り入れることを計画している。アミノ酸分析は主に生命の起原に繋がる情報を、官能基分析からは主に宇宙における有機物の変成に関する情報が得られると考えている。
   一方、宇宙環境における有機物の分解・変成がどの程度起こるのかを明らかにすることは宇宙由来有機物の地球生命の誕生に与える寄与を考える上で重要になる。そこで、遊離のアミノ酸とアミノ酸の前駆体で、安定性に差異があるのかを暴露実験により明らかにすることも計画されている。特に、アミノ酸の前駆体の候補として、アミノニトリルやヒダントインなどの低分子物質と、複雑な高分子量有機物が考えられているが、どちらが安定なのかを調べることを海外の宇宙暴露実験との差別化をはかるポイントとしている。これまでに、真空紫外線や放射線・重粒子線の照射実験から、遊離のアミノ酸よりもアミノ酸前駆体の方が安定であることを明らかにしている。それらのエネルギー線が複合して降り注ぐ宇宙環境でも同じことが起こるのかを明らかにしていくことになっている。

6.終わりに

  「生命の起源」に関する研究というと、多くの人々が興味を持っている課題ではあるが、実験室でのモデル実験がどこまで実際の宇宙史の中で起きた事象なのかの判断ができないため、「ちょっと怪しい研究のようにも思われてもきた。しかし、小惑星探査機「はやぶさ」による「イトカワ」の探査とサンプルリターンのように、これまでは考えられなかったような新しい試料やデータが得られるようになってきたため、少しは科学的に評価を下せるようになってきた。このため、若い研究者もこのような分野の加わりやすくなってきた。また、化学だけではなく、物理学、生物学、地球惑星科学、天文学の知識も必要な融合領域であるが、今回のはやぶさ試料の分析では、薬学や農学分野の研究者の協力を得ることができた。今後、新しいデータを得るためには、さらに多くの他分野の研究者らの力を借りながら、新しい分析技術などを積極的に取り入れていくことが重要である。そして、広く科学分野を横断した学問領域として、これから大いに発展することが期待できる分野であろう。

謝辞

「イトカワ粒子」の有機物分析は、奈良岡浩九州大学大学院理学研究院教授をリーダーに、浜瀬健司九州大学大学院薬学研究院教授、名古屋大学大学院農学研究科福島教授らとの共同研究です。「たんぽぽ」計画は、山岸明彦東京薬科大学教授をリーダーに小林憲正横浜国立大学大学院工学研究科教授、薮田ひかる大阪大学大学院理学研究科助教ら多くの方々との共同研究です。本稿に関連する研究には、科学研究費補助金・新学術領域(研究領域提案型)25108006(H25-年度)、基盤研究(B)22340166(H22-24年度)、挑戦的萌芽研究25610165(H25-26年度)、コンソーシアム福岡(H22年度)と福岡工業大学環境科学研究所研究員(H25-26年度)よりの研究助成を受けました。

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