Viva Origino Vol.42 No.4
A DEFINITION OF LIFE

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Hiroshi Hattori


Alpha Institute, 1-42-6-301, Akabane, Kita-ku, Tokyo, 115-0045, Japan
Email: phtr@nifty.com
(Received 26 Aug, 2014, Accepted 8 January, 2015)

Abstract
Metabolic and replication abilities are generally required for the conditions of life. Because genes and translation systems in cells drive metabolism and replication, “translation system (including gene)” is more fundamental element of life. Translation system itself is not life; however, it could be regarded as a marker that characterizes life. Life, matter, and their intermediates can be classified by virtue of the marker. This conception, which implies that translation mechanism is the essence of life, leads to another viewpoint on the origin of life: “translation-first” rather than “metabolism or replication-first”.

(Keywords) metabolism, replication, translation, element of life, essence of life



生命の定義について
服部 宏
アルファ研究室

1.はじめに  

 生命の定義と起源の問題は、表裏一体を成す。通常、生命の要件として代謝能と複製能が求められるので、その起源についても、「代謝が先か複製が先か(あるいはタンパク質かRNAか)」という議論が続けられてきた[1]。代謝・複製は、遺伝子の存在と翻訳系の働きによって可能になるので、「遺伝子・翻訳系」が生命の基盤を成している。
  遺伝子・遺伝暗号・タンパク質の形成過程の重要性[2]あるいはペプチド合成の起源や進化[3,4]等について種々の考察や研究はあるものの、生命の定義や起源の議論において、翻訳系は少し軽視されてきたのではないだろうか。今回、地球上の全生命が有する翻訳機構を生命の本質と捉え、生命の定義を構成する1つの方法を提案する。この考え方では、生命起源のモデルも、代謝や複製より翻訳が先行することになる。

2.生命および生命の要素

 現在広く受け入れられている生命の定義[5]を集約すると、生命とは「代謝能・複製能・進化能を備えた細胞(またその集合体)」である。この定義によれば、細胞が生命の最小単位ということになる。その細胞の生を担うのは、情報を持つ遺伝子とその情報に基づいてタンパク質合成を行う翻訳系であるので、「遺伝子・翻訳系」は、より基礎的な生命の要素である。なお、代謝能と複製能はそれらに必要な遺伝子を備えているかどうかという言わば遺伝子の量的な問題であるのに対し、進化能は核酸の塩基配列が遺伝情報を持つというその仕組みによりもたらされる。
 翻訳とは、「核酸の塩基配列をアミノ酸の配列に変換すること」であり、複数のRNAが遺伝暗号に基づいて実行する。複数のRNAとは、現在の生物で言えば、mRNA・tRNA・リボソームから成る系である。DNA出現以前は、RNA(mRNA)が遺伝子で転写のプロセスはなく、遺伝子と翻訳系は一体であったと考えられる。この「遺伝子・翻訳系」を、細胞(生命)より下層の単位と見なし、「生命要素」と呼ぶことにしよう。生命要素自体は生命とは言えないが、その存在が生命を特徴づける標識になる。翻訳の意味については、後でもう一度考察する。
 ウイルスのような、遺伝子は持つが翻訳系を持たないものは、どのように考えるべきだろうか。その遺伝子は、翻訳されることを前提に存在している。つまり、翻訳の仕組みを使うという点で、他の生命と変わらない。翻訳機構を使うウイルスの遺伝子は、遺伝子・翻訳系の一部(あるいは翻訳系を暗に含む)と見なせば、これも生命要素と認めることができる。



3.生命の度合いを表す指標

 生命は必ず生命要素を持つが、生命要素を持つものが生命とは限らない。ここで、

 L=1:生命(代謝・複製・進化能を持つ細胞)

 L=0:物質(生命要素なし)

 0<L<1:生命とは言えないが生命要素を持つ

のように、生命の度合いを表す指標Lを導入する。(小林の生命機能を表す指標[6]と同様だが、使用法が少し異なる。)
 L=1については、通常の定義(前節)を採用する。そして生命要素を考えると、物質と生命の中間にあるものを0<L<1に位置づけることができ、地球生命の全系統(0<L≦1)が定義される。L=0/L>0は、遺伝子・翻訳系という標識を持つかどうか(あるいは翻訳機構を使っているかどうか)で判別される。例えば、単独のRNAやタンパク質あるいは結晶などの物質は、すべてL=0である。
  ミトコンドリアは遺伝子・翻訳系を持つが、十分な代謝・複製能を持たないので、0<L<1と判定される。植物のミトコンドリアはゲノムサイズが比較的大きく、また原生生物Reclinomonas americanaのミトコンドリア(タンパク質をコードする遺伝子が62個)のように遺伝子数の多いものなど、種々存在する[7]。例えばL=0.3、0.8、のようにLの数値を合理的に評価する方法があれば、より詳細な位置づけが可能になる。ウイルスは細胞がなく代謝も行わず生命とは見なされないが、「翻訳機構を使う系」として生命要素を認めれば、やはり0<L<1になる。ウイルスは以前から「生命と非生命の間」と言われてきたが、明確に位置づけられることが望ましい。また、ウイルスのゲノムも多様でゲノムサイズにも大きな幅がある。
 PUREシステム[8]のような無細胞系も、遺伝子を入れればタンパク質合成を行うので、「PUREシステム+遺伝子」の系は、0<L<1となる。一方、ロボットは、将来、自ら代謝・複製等を行えるようになったとしても、L=0である。このLは地球型生命についての指標であり、ロボットが生命ないし生命要素を有すると判定されるような、より一般的な生命の定義も可能だろう。もし翻訳機構を利用するロボットを作ればL>0になるが、これは人工生命に近くなる。地球外生命についても、このLでスケールされる地球型生命を対象にするのか、より広い意味の生命を想定するのか、それによって存在可能性に大きな違いがあるはずである。

4.翻訳について

 遺伝子・翻訳系は、セントラルドグマに見られるとおり、生命の中核を担い、全生物に普遍的なものである。自然の(直接の)化学作用では起こり得ないことを為すのが生命の特質の1つとすれば、それは翻訳に由来する。さらにその元は遺伝子が進化の蓄積した情報を有しているためであるが、その情報を形にするのが翻訳である。
  翻訳速度は、例えばマウスの繊維芽細胞でRNA1分子当たり平均毎時40タンパク質[9]とされるが、そこには数十億年の生命活動が凝縮されている。多年にわたる淘汰の結果の産物が、自然のプロセスで生じることはまずあり得ない。ここに、生命現象と自然現象の違いが表れるので、その差異を生み出すものを生命の本質と捉えるべきである。進化能を生命の本質とする見方[10]は遺伝子型に重きを置くもので、ここでは表現型を重視し翻訳機構(情報を形にする仕組み)を生命の本質と捉えて生命を特徴づける標識とした。
  遺伝暗号は翻訳の鍵を握る重要な仕組みで、その起源や進化についてこれまで膨大な研究があるものの[11,12,13]、初期の決定様式については未だ結着を見ない。物理化学的な必然性があったと推測されるが、いずれにしても直接の化学作用によるもので、遺伝暗号の決定自体は、自然現象の範疇に入ると考えてよいのではないだろうか。もちろん遺伝暗号が生命誕生の必須要件の1つであることに変わりなく、その起源の解明は重要な課題である。

5.最初の生命要素

 生命の起源は最初にL=1になったものだが、もう一つの節目として生命要素の起源がある(図)。最初に(L=0から)L>0になった(初めて生命要素を有した)ものは、その定義から、最初に翻訳を行ったもの(幾つかのRNAの系)ということになる。この最初の生命要素を、具体的に想像してみよう。

図:生命に至るプロセスは連続的であっても、幾つかの節目は考えられる

 まず初めに、RNAが化学進化してある程度の大きさ(長さ)になり、アミノ酸との結合などの機能を持てるようになることが前提である。このRNAをRNA0と表すことにしよう(最小で10mer程度だろうか?)。RNA0が幾つか生じ、そのうちの1つは遺伝子、1つはtRNAの役割を、またRNA0が2つ(以上)結合して酵素活性を持ちリボソームの役割を果たすとする。遺伝暗号も幾つか決まっていれば、ごく簡単な翻訳(例えば、GGCGCC→Gly・Alaのような)が可能になる。このようなRNA0の系が、最初期の翻訳系=最初の生命要素の描像である。
 複数のRNAが共同作業を始めたことが重要なステップで、初期には、遺伝子も特別な存在ではなくtRNAやリボソームと対等な翻訳系の一員(すべてRNA0)であったとするものである。このモデルは、Eigenらの考察[14]やproto-ribosomeの研究[15,16]等をヒントに想像を飛躍させたもので、将来の実験的アプローチが待たれる。

6.おわりに

 生命の定義は、生命の本質を示し、その起源を定めることになる。その定義が多々あるのは、生命に至るまでのモデル(つまり起源についての考え方)がそれぞれ違うためで、起源に対する見方が異なれば、定義もまた異なる。今回の定義法および起源に対するモデルからは、「代謝か複製か」ではなく、「翻訳が先」という見方に導かれる。
 生命の情報は進化によって更新され、翻訳がその情報を具現化する。進化能と翻訳機構が地球生命の本質であり、翻訳の始まりが生命の最初の芽生えであったと考えている。

謝辞

  本稿の元となるシンポジウム講演の機会を与えて下さいました、川村邦男会長はじめ生命の起原および進化学会の皆様に感謝申し上げます。

References
1.   Prud’homme-Genereux, A. and Groenewoud, R. The Molecular Origins of Life: Replication or Metabolism-First? National Center for Case Study Teaching in Science, State University of New York (2012)

2.   Ikehara, K. GADV Hypothesis on the Origin of Life. Viva Origino 40, 62-68 (2012)

3.   伏見譲,タンパク質合成系の起源. 蛋白質核酸酵素別冊23, 5-13 (1980)

4.   Tamura, K. and Alexander, R.W. Peptide synthesis through evolution. Cell. Mol. Life. Sci. 61, 1317-1330 (2004)

5.   Yamagishi, A. Definition or Property of Life. Viva Origino 42, (2014)

6.   小林憲正,模擬星間物質への量子ビーム照射による生体分子・生体機能の創生. 電気学会研究会資料,光・量子デバイス研究会,OQD-14, 1-4 (2014)

7.   石川統,細胞の進化.「化学進化・細胞進化」(石川統ら編著)岩波書店, 55-103 (2004)

8.   Shimizu, Y. et al. Cell-free translation reconstituted with purified components. Nat. Biotechnol. 19, 751-755 (2001)

9.   Schwanhausser, B. et al. Global quantification of mammalian gene expression control. Nature 473, 337-342 (2011)

10.  Husimi, Y. Defining life from the evolvability viewpoint. Viva Origino 42, 38-41 (2014)

11.  Tamura, K. and Hasegawa, T. Origin of the Genetic Code. Viva Origino 41, 29-33 (2013)

12.  Ikehara, K. and Niihara, Y. Origin and Evolutionary Process of the Genetic Code. Current Medicinal Chemistry 14, 3221-3231 (2007)

13.  Osawa, S. Evolution of the Genetic Code. Oxford University Press, New York, 1995; 邦訳「遺伝暗号の起源と進化」(渡辺公綱ら訳)共立出版 (1997)

14.  Eigen, M. and Schuster, P. The Hypercycle. A Principle of Natural Self-Organization. Part C: The Realistic Hypercycle. Naturwiss. 65, 341-69 (1978)

15.  Agmon, I. The Dimeric Proto-Ribosome: Structural Details and Possible Implications on the Origin of Life. Int. J. Mol. Sci. 10, 2921-2934 (2009)

16.  Tamura, K. Peptide Bond Formation: RNA’s Big Bang. Journal of Cosmology 13, 3800-3810 (2011)


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