Viva Origino Vol.42 No.4
RNAワールドからRNPワールドへの進化におけるアミノ酸およびポリペプチドの役割

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原田和雄
東京学芸大学・教育学部
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町 4-1-1
harada@u-gakugei.ac.jp
(Received 24 November, 2014, Accepted 10 June, 2015)

1.RNAワールドからの進化

  RNA酵素の発見をきっかけとして、RNAが遺伝物質、および触媒としての機能を兼ね備えた自己複製体が最初の生命体だったとするRNAワールド仮説が提唱され、今では広く受け入れられるようになっている。RNAワールドから現在の生物の情報伝達システムへの進化において、最初の重要なステップはRNPワールドへの移り変わり、すなわちリボソームを中心とする翻訳系の進化だったと考えられる。
  リボソームのはたらきに対する理解が進むに従って、リボソームRNAがその機能において中心的な役割を果たしていることが分かってきた[1]。また、SELEX(in vitro selection)実験により、tRNAのアミノアシル化、ペプチド転移反応など、翻訳に必要な活性(機能)をRNAが担うことができることが明らかにされている。これらのことは、RNAワールドから翻訳系が進化しうることが原理的には可能であることを示唆している。しかしながら、現在の翻訳系は複雑であり、それがどのように誕生し、どのような過程により進化したのか、共通認識に基づいた理解には至っていない。
    本稿では、翻訳系の誕生、および進化において、アミノ酸やペプチドが果たした役割について、RNA-アミノ酸、および、RNA-ペプチド複合体についての知見に基づいて考察する。

2.機能性RNPにおけるアミノ酸、およびペプチドの役割について

  現在の複雑な翻訳系は、いくつものステップを踏んで段階的に、しかも各ステップは何らかの選択的優位性をもたらす形で必要な機能を生み出されたと考えられる。リボソームのような複雑な機能性RNPを生み出す原動力は何だったのか?アミノ酸やポリペプチドがRNAにもたらす影響は、1)RNAの折りたたみ、2)構造のレパートリー、および、3)RNAの機能(酵素活性等)に対するものに分類できる。
    RNAはわずかに4種類の塩基しか持たないため、試験管内で折り畳まれる際には、目的とする二次構造の他、同程度の熱力学的な安定性を持つ様々な異なる二次構造が形成される。HIVのNCp7タンパク質は、RNAに結合し[2]、その再アニーリング・構造変換を促すことにより[3]、リボザイムのような機能性RNAの正しい折りたたみを手助けすることが知られている[4]。この他にもいくつかのクラスの「RNAシャペロン」が見いだされており、これらのタンパク質は一般に塩基性でアルギニンを豊富に含むという特徴がある[5]。
    RNA構造は一般に柔軟であり、小有機分子やペプチドとの結合によりその構造が安定化され、あるいは、構造変化が起こることが知られている。これにより、RNA構造のレパートリーの拡張に結びつく可能性がある。その最もシンプルな例として、アルギニンにより誘発されるRNAの構造変換が知られている。HIV Tatタンパク質とTAR RNAのモデルシステムとして、TatペプチドとTARの相互作用が詳細に解析され、Tatペプチドのアルギニン残基が特異性を決定すること、また、アルギニン単独でも結合することが知られている。この時、バルジのU塩基がA-Uとbase-tripletを形成し、グアニジンが特異的に結合するためのbinding siteを形成する[6]。Tatの他にもアルギニンを豊富に含むペプチドとそのRNAとの複合体が知られており、いずれの場合もRNAのバルジやループなどの柔軟な領域に結合し、RNAを安定化させることが知られている[7]。また、HIV RRE RNAを標的として、アルギニンを豊富に含むライブラリーからのセレクションにより、RREの本来の結合相手であるRevよりも強い親和性を持ち、Revとは異なるRNA結合様式を持つペプチドが容易に同定できている[8]。このことから、アルギニンを含むペプチドはRNAとの結合において、多彩なモチーフであることが示された。
    機能性RNAを手助けするタンパク質の例もいくつか報告されている。RNA酵素であるリボヌクレアーゼPにおけるタンパク質成分は、基質との静電的な反発の解消、生成物のリリースを促す役割をはたすと考えられている[9]。また、リボソーム・タンパク質は、翻訳の効率、および精度を高める役割があると考えられている[1]。
    このように、アミノ酸やペプチドは、RNAの機能構造の形成を助け、機能性RNAの性能の向上や新しい機能の創出において重要な役割を果たした可能性が高いと考えられる。

3.アミノ酸-RNA複合体を基本単位とした原始的な翻訳系の構築

  翻訳がRNAとアミノ酸の特異的な相互作用に基づいた、原始的なコーディングによるペプチドの合成から始まったとする「立体化学仮説 (Stereochemical Hypothesis)」が提唱されている[10]。このような「鋳型RNAが直接の鋳型となる翻訳」というシナリオは、特定のアミノ酸に結合する天然、およびセレクションにより得られるRNA構造が対応するコドン、もしくはアンチコドン配列をしばしば含むことから一定の支持を受けるようになった[11]。しかしながら、RNAが実際に二つのアミノ酸残基をカップリング可能な位置に配置することが可能か実証されていなかった。
    著者らは、HIV Tatタンパク質に結合するRNAアプタマーがTatの隣接する二つのアルギニンに特異的に結合することを明らかにした。さらに、このRNAがペプチド・プライマーのN末端アルギニン残基へのアルギニンのカップリング反応を促進することを示した[12]。以上の実験により、アミノ酸結合RNA構造を基本単位とするアミノ酸の特異的な縮合反応の構築が可能であり、原理的には、原始的なコードされた翻訳系を構築できることが示された。

4.今後の展望

  RNAワールド仮説の提唱は、生物進化初期の道筋が明確になり、生命の起原に関する研究の方向性が定まった点で、画期的な出来事であった言える。しかしながら、生物進化初期において重要な段階だったと考えられる翻訳系の進化のシナリオ構築は未だ初歩的な段階にある。今後はRNA、およびリボソームを始めとするリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体の構造・機能に関するさらなる理解が必要であると考える。このような知見を踏まえて、リボソームのそれぞれの機能を進化させるための原動力が何であったか、コードされた翻訳がどのように誕生したかについて、実験的な検証を中心に進めていくことが大切であると考えられる。  

  

引用文献

    引用文献
  1. Noller, H. F. Evolution of ribosomes and translation from an RNA world, pp. 287-307, in Gesteland, R. F., Cech, T. R. and Atkins, J. F. Eds, The RNA World, 3rd ed., CSHL Press, Plainview, New York, 2005.
  2. De Guzman, R. N., Wu, Z. R., Stalling, C. C., Pappalardo, L. Borer, P. N. and Summers, M. F. Structure of the HIV-1 nucleocapsid protein bound to the SL3 psi-RNA recognition element, Science 279, 384-388, 1998.
  3. Takahashi, K., Baba, S., Koyanagi, Y., Yamamoto, N., Takaku, H. and Kawai, G. Two basic regions of NCp7 are sufficient for conformational conversion of HIV-1 dimerization initiation site from kissing-loop to extended-duplex dimer, J. Biol. Chem. 276, 31274-31278, 2001.
  4. Herschlag, D., Khosla, M., Tsuchihashi, Z. and Karpel, R. L. An RNA chaperone activity of non-specific RNA binding proteins in hammerhead ribozyme catalysis, EMBO J. 13, 2913-2914, 1994.
  5. Russel, R. RNA misfolding and the action of chaperones, Front. Biosci. 13, 1-20, 2008.
  6. Tao, J. and Frankel, A. D. Specific binding of arginine to TAR RNA, Proc. Natl. Acad. Sci. 89, 2723-2726, 1992; Puglisi J. D., Tan, R., Calnan, B. J., Frankel, A. D. and Williamson, J. R., Science 257, 76-80, 1993.
  7. Frankel, A. D. Fitting peptides into the RNA world. Curr. Opin. Struct. Biol., 10, 332-340, 2000.
  8. Harada, K., Martin, S. S. and Frankel, A. D., Nature 380, 175-179, 1996; Sugaya, M., Nishino, N., Katoh, A. and Harada, K., J. Pept. Sci. 14, 978-983, 2008.
  9. Reich, C., Olsen, G. J., Pace, B. and Pace N. R. Role of the protein moiety of ribonuclease P, a ribonucleoprotein enzyme, Science 239, 178-181, 1988.
  10. Crick, F. H. The origin of the genetic code. J. Mol. Biol. 38, 367-379, 1968.
  11. Yarus, M., Widmann, J. J., Knight, R. J. Mol. Evol. 69, 406-429, 2009.
  12. Harada, K., Aoyama, S., Matsugami, A., Kumar, P. K. R., Katahira, M., Kato, N. and Ohkanda, J. RNA-directed amino acid coupling as a model reaction for primitive coded translation, ChemBioChem, 15, 794-798, 2014.



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