Viva Origino Vol.42 No.4
気水間の放電・プラズマ、そして光によるアミノ酸生成

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胸組虎胤
鳴門教育大学大学院学校教育研究科
自然系コース(理科)
(Received 30 October, 2014, Accepted 6 February, 2015)

1. ミラーの実験とガリソンの実験の意味すること

地球の生命の特徴として、遺伝情報に基づいて「タンパク質をつくる」こと、すなわち翻訳を挙げることに異議を唱える研究者は少ないのではないだろうか。分子生物学の黎明期の研究成果の白眉の一つは、遺伝情報を担う、4文字で記述される塩基配列と20文字(20種のアミノ酸)からなるタンパク質のアミノ酸配列との変換ルール、遺伝暗号表、の解明であろう。

 3文字の塩基からなるコドン64種のうち、61種類のコドンが20種類のいずれかのアミノ酸に対応する。アミノ酸に対応しない3種類のコドンは終止コドンであり、ピリオドとしての役割を持つ(Figure 1A)。Figure 1Aで示した遺伝暗号表は、「すべて」の生物で共通して使われている(そこでUniversal genetic code普遍遺伝暗号表またはStandard genetic code標準遺伝暗号表)[1]。

 しかし、1979年に初めての報告があってから[2,3]、標準遺伝暗号表と少し異なる遺伝暗号表を使っている生物が色々と知られてきた。これらは、いわば方言で、標準遺伝暗号表の一部が変化する形で進化して生まれて来たものである(Unusual genetic code変則遺伝暗号、Modified genetic code派生型遺伝暗号、またはNon-standard genetic code非標準遺伝暗号)。多くは、ゲノムサイズの小さいMycoplasma類などの寄生性の真正細菌や細胞小器官であるミトコンドリアに見いだされるが、真核生物の核ゲノムでも、標準遺伝暗号表から逸脱した遺伝暗号表の例が知られている(Figure 1B-C) [4-6]。

 遺伝暗号の進化がどのように起きたかについて2種の代表的な説明が知られている。1つ目は、Osawa & Jukesによるcodon capture(コドン捕獲)説である[7]。この説では、次のようなプロセスでコドンの再指定が進行すると説明する。①あるコドンがゲノム上から消失する。②そのコドンを解読するtRNAないしは終結因子(Release Factor、RF)がその翻訳系から失われ、そのコドンが非指定コドンとなる。③その非指定コドンを認識するtRNAまたはRFが出現する。④その非指定コドンがゲノムに再出現し、③で出現したtRNAないしはRFによって解読されるようになる(③で出現したtRNAないしはRFによって「捕獲」される)。

 2つ目は、Schultz & Yarus によるambiguous intermediate(多義中間状態)説である[8]。この説では、次のようなプロセスでコドンの再指定が進行すると説明する。①あるアミノ酸に対応するtRNAによって解読されているコドンを認識する、元とは異なるアミノ酸に対応するtRNAまたはRFが出現する(ある終止コドンに対し、新たにそのコドンを認識するtRNAが出現する)。②このコドンが、複数の別のアミノ酸に対応するtRNA(一方はRFでも構わない)に同時に対応する、多義コドンとなる。③複数の別のアミノ酸に対応するtRNA (一方はRFでも構わない)の一方が翻訳系から失われる。④残ったtRNA(またはRF)が本来のものと異なるのであれば、この一連の過程でコドンの再指定が起こる。この説でも、多義コドンの数がゲノム中で多数存在することはその生物の生存に不利であると考えられるので、この場合でも、再指定が起こるコドンのゲノム上の数は非常に少なくなっていることが必要であろう。

 Sengupta等のシミュレーション研究によれば、コドン捕獲説と多義中間状態説のどちらが良い説明を与えるかは、ゲノムサイズと再指定されるコドンの出現頻度により異なる。ミトコンドリアゲノムのような小さなゲノムの場合、コドン捕獲説が良くコドン再指定のプロセスを説明する[9]。

 一方、渡辺らは、ミトコンドリアtRNAの解析から表1で示したようなWobble ruleの拡張を提案した(Table 1) [4-6]。この拡張されたWobble ruleに基づいて考えると、2コドンファミリーボックスでのコドン再指定について、このようなメカニズムも考え得る(Figure 2)。コドン3文字目がU、Cのコドンはアンチコドン1文字目にG (G34)を持つtRNAによって解読され、コドン3文字目がA、Gのコドンはアンチコドン1文字目に修飾されたU (U*34)を持つtRNA(またはC34+t6A37を持つtRNA、f5C34を持つtRNA)によって解読される。G34を持つtRNAは、コドン3文字目がAのコドンも解読し得るが、U*34を持つtRNA(またはC34+t6A37を持つtRNA、f5C34を持つtRNA)と競争的に排除され、Aが3文字目のコドンを結果的に解読しないと考えられる [6]。もし、U*34を持つtRNAの遺伝子上で、アンチコドン1文字目(T)がCに変異するなら(またはC34+t6A37を持つtRNAのt6A37の修飾、f5C34を持つtRNAのf5C34の修飾が失われるなら)、G34を持つtRNAがU、C、またはAを3文字目に持つコドンを解読し、変異後のC34を持つtRNAがGを3文字目に持つコドンのみを解読するように、変化する。ここでは、コドンの非指定化やコドンの多義化というステップ無しにコドンの再指定が生じ得る。同様に、コドン3文字目がU、CのコドンはG34を持つtRNAによって解読され、コドン3文字目がA、Gのコドンは修飾されたU34を持つtRNAによって解読されると言う状況下を考える。ここで、Gが3文字目を占めるコドンがゲノム上から失われる(非指定コドン化する)と、Aが3文字目を占めるコドンは修飾されたU34を持つtRNAの消失があっても、非指定コドン化すること無しにG34を持つtRNAによって捕獲され、コドンの再指定が起こることが期待される。また、この過程は実験的な検証が可能であろう。

 このように拡張版Wobble ruleに基づいて遺伝暗号表の進化を考えると、codon capture説を再解釈するのであれば非指定コドンの出現や特定のコドンの消失の過程無し(再捕獲されるコドンの出現回数が少なくなることは必要だが)に、ambiguous intermediate説を再解釈するのであれば1つのコドンの多義状態の過程無しに、コドンの進化の多くを説明できることになる。そのように考えると、codon capture説とambiguous intermediate説は本質的に同じと言ってよいのではないか。

引用文献

  1. Watanabe, K. and Yokobori, S. Genetic Code: Introduction. In John Wiley & Sons, Ltd, eLS. Chichester, UK: John Wiley & Sons, Ltd. doi:10.1002/9780470015902.a0000809.pub2 (2011)
  2. Barrell, B. G., Bankier, A. T. and Drouin, J. A different genetic code in human mitochondria. Nature 282, 189–194 (1979)
  3. Macino, G., Coruzzi, G., Nobrega, F. G., Li, M. and Tzagoloff, A. Use of the UGA terminator as a tryptophan codon in yeast mitochondria. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 3784–3785 (1979)
  4. Yokobori, S., Ueda, T. and Watanabe, K. Evolution of the Genetic Code. Chichester: John Wiley & Sons, Ltd. doi:10.1038/npg.els.0001494 (2010)
  5. Watanabe, K. and Yokobori, S. tRNA Modification and Genetic Code Variations in Animal Mitochondria. J. Nucleic Acids 2011, 1–12. doi:10.4061/2011/623095 (2011)
  6. Watanabe, K. and Yokobori, S. How the Early Genetic Code Was Established?: Inference from the Analysis of Extant Animal Mitochondrial Decoding Systems. In V. A. Erdmann, W. T. Markiewicz, & J. Barciszewski, Chemical Biology of Nucleic Acids. pp. 25-40. Berlin, Heidelberg: Springer Berlin Heidelberg. doi:10.1007/978-3-642-54452-1_2 (2014)
  7. Osawa, S. and Jukes, T. H. Codon reassignment (codon capture) in evolution. J. Mol. Evol. 28, 271–278 (1989)
  8. Schultz, D. W. and Yarus, M. Transfer RNA mutation and the malleability of the genetic code. J. Mol. Biol. 235, 1377–1380 (1994)
  9. Sengupta, S., Yang, X. and Higgs, P. G. The mechanisms of codon reassignments in mitochondrial genetic codes. J. Mol. Evol. 64, 662–688 (2007)



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