Viva Origino Vol.42 No.3
Origins 2014報告

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広島修道大学・人間環境学部
〒731-3195広島市安佐南区大塚東1-1-1
kawamura@shudo-u.ac.jp

(Received: July 30, 2014, Accepted: October 10, 2014)

1. 37年ぶりに日本で開催された生命の起源に関する大規模な国際会議

   2014年7月6日から11日の間にOrigins 2014が奈良市(奈良県新公会堂)で開催された.池原健二運営委員長らをはじめとして,SSOELの運営委員らがLocal Organizing Committee(LOC)の主なメンバーとして準備と運営に携わった.SSOELはOrigins 2014の共催団体として,また当日は多くのSSOEL会員が参加した.ここでは,Origins 2014が開催されるに至った経緯を簡単に説明し,学会を終了して感じたこと,今後の生命の起源研究の展望などを述べたい.

2.いきさつ

    ISSOL (the International Society for the Study of the Origin of Life – The International Astrobiology Society) とIAU C51 (Commission 51 of the International Astronomical Union) Bioastronomyとの初めての共同開催による生命の起源に関する国際会議Originsは2011年にモンペリエで開催された.この会議につづき,日本が次回2014年の国際会議の開催地として立候補した.ISSOLにとっては通算12回目の国際会議で,生命の起原の国際会議として17回目である.1977年にISSOLの国際会議が京都で開催されて以来,だいぶ時間がたっていたため,そろそろ日本で開催して欲しいという話がISSOL のメンバーの間で数年前から話題になっていた.そこで,2005年の開催に向けて2002年のISSOLのCouncilor meetingにおいて日本が立候補したが,最終的に2005年のISSOL国際会議は北京で開催された.このような中で,池原先生が日本で開催したいという意向を示してくださり,2011年の会議で立候補し開催が決定した.実に37年ぶりの開催である.
    2011の国際会議の終了後から3年間の準備期間があった.この間,主に関西地区でLOCのメンバーが集まり運営委員会を開催し,準備を進めた.この国際会議は前々回まではISSOLの単独の開催であったが,前述の通り前回からBioastronomyとの共同開催となった.また,学会のプログラムなどの決定等はScientific organizing committee(SOC)が行うという分担が伝統的に行われていた.このためIAU C51やSOCとの調整などにおいても難しい面があった.無事学会が開催されたことに,池原先生はじめこの学会の運営に携わった方々の努力に感謝している.

3.生命の起源の国際会議の想い出

   私が生命起源の分野を研究するようになったのはFerris研究室のメンバーになった1992年からであり,最初にISSOLの国際会議に参加したのは1993年のバルセロナ大会の時であった.当時は私もISSOLから学会補助をいただいた.S. L. Miller,M. Eigen,C. R. de Duve,L. E. Orgelなどの著名な科学者を目にして感動した.工業化学から生命起源の研究に入り,その国際会議に参加したことも嬉しかった.Origins 2014で久しぶりに会ったメンバーはこの頃知り合った,生命の起源という同じ目標を持った大切な友人達である.Origins 2014はそのような想い出をよみがえらせる楽しい場でもあった.定期的に生命起源の国際会議に参加して感じるのは,古くから知っている人もいるし,別の分野に移って余り見かけなくなった人,あるいは若い人が入ってくるなど,生命の起源研究は開かれた分野であると言うことだ.そして研究のレベルが高いことはもちろんであるが,研究分野がオープンであり相互に融合し合うダイナミックさにおいては,この上ないと思う.日本では4年生の時に所属した研究室と同じ分野で研究を続けている先生方が,まだまだ主流だ.このような主流からはずれて色々難しいこともあるけれども,生命の起源というエキサイティングな分野で研究を続けることができて良かったと思う.

4.Origins 2014から学ぶこと

   ISSOLを主体とする生命の起源に関する国際会議の開催が, 37年間もの間,日本から遠ざかっていたことは望ましいことではなかったと思う.ある国で生命の起源のような真に自然現象や宇宙の根本を考える問題をどのぐらい研究をしているかということは,その国のサイエンスや学問の底力を示すバロメーターである.昨今,日本のサイエンス事情は色々な課題がある.若い研究者達が安定したポストにつけないこと,科学技術研究費の配分が主要な大学や大型プロジェクトに偏っていること,そもそも自然科学の基礎研究への公的な予算規模が他の先進国と比べて小さいこと,若い科学者が確実に成果が出そうな研究分野に進む傾向が強くなっていること,などがあげられる.科学者一人一人が主体的に科学研究を進めるという,科学者が本来しなければならないことをしにくくしている,あるいは,科学者自身がしなくなっている状況がある.このようないびつなサイエンスのあり方を見ると,若い科学者が,誠実さと勇気と強い根気が必要な確かなサイエンス教育を受ける環境が,日本で維持されているのかどうかが懸念される.
    Origins 2014でもInvited lectureをした発表者の中には,日本では考えられないほど若い科学者が含まれていた.これは今に始まったことではない.彼らがこれから欧米のそれぞれの分野でリーダーとして活躍するのだと考えると,20年後の日本との差がどれだけ開いてしまうかは歴然としている.そして,サイエンス教育を通じて次世代ではさらにその差は増幅されるだろう.日本にも才能を持つ若者がいるはずであるが,若者の才能を十分に生かすための方法において,日本に問題があることは間違いない.このような閉塞感のある状況の中では,サイエンスに国境はないので若者はどんどん外国に出て行けば良いという人もある.確かにサイエンスの成果は客観的であり国境を越えて伝わることは事実であるが,どのようなサイエンスを生み出すかはその国や地域の文化や伝統の背景を受けているはずである.サイエンスがアメリカや西欧に集中するならば,どのようなサイエンスを生み出すかという多様性を失うだろう.また,サイエンスは高度な先端技術の開発を促すことによって日本の競争力を維持する.このように考えると,日本がだめなら外国に行けばいいのだということにはならない.この観点においても,Origins 2014を開催したことは非常に良かった.

5.生命起源研究の行方

   Origins 2014の会議は第2回目のISSOLとIAU C51の共同開催ということで,それ以前と比べてAstrobiology分野の報告が充実した.宇宙探査技術が20世紀終わりから急速に進歩して,従来は空想でしかなかった,地球(あるいは火星)のような生命が誕生し得る場が宇宙に広く分布することなどが,観測事実として明らかになりつつある.今後も太陽系内の天体探査計画などが目白押しである.分子生物学の発展や,地球内部や海洋探査などと並んで,このような分野から様々な報告が続くだろう.その一方で,ミラーが行ったような,原始地球環境を模擬して実験室で化学進化を再現するという方法は,相対的に縮小したという印象を受けた.RNAワールドに関する議論も以前よりは少なくなったように思う.しかし,生命の起源とは何かを明らかにするためには,生命(生きていること)を分子や化学反応や生命出現過程に働く法則という要素にまで分解しそれを再構築して,誰でも再現できる生命モデルを示すという作業が必要である.このためには,化学進化の新しい研究方法論が登場することがカギを握っていると思われる.その先には,それらの化学進化的研究成果を,Astrobiology,分子生物学,あるいは地球科学などの成果と照らし合わせて評価することで,生命の起源が明らかになる.そのゴールに向かって生命の起源研究が力強く進んでいることを,Origins 2014で確認した.

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