Viva Origino Vol.41 No.2
DETECTION OF THE EVOLUTIONAL PROCESS TRACED FROM THE ARCHAEAL GENOMIC DATA

Down Load this article


Yutaka Kawarabayasi
Laboratory on Functional Genomics of Extremophiles, Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka 812-8581, Japan
Health Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Amagasaki, Hyogo661-0974, Japan
Email: kyutaka@agr.kyushu-u.ac.jp

Abstract

   Archaea was established according to difference of 16S rRNA nucleotide sequences, and is thought to be the ancestral organism for eukaryote. Now many entire nucleotide sequences of Archaeal genomes are available. By comparing among Archaeal genomic data, information for their evolution can be extracted. In this work, the evolutional features are extracted from genomic information of three Archaeal species, Pyrococcus horikoshii, Aeropyrum pernix and Sulfolobus tokodaii. 1. From the comparison of the overall positioning of the similar genes, it is shown that two Pyrococcus species, P. abyssi and P. horikoshii, conserve their overall gene ordering with a few times grovel genomic recombination, revealing that these two species were separated recently. Conversely, species in genus Sulfolobus did not show any structural similarity of genome, predicting that species in genus Sulfolobus were developed independently. 2. Among Pyrococcus species, the gene ordering within the mannosylglycerate biosynthesis gene cluster is completely retained with high sequence similarity of each gene, revealing that this cluster is thought to be important for genus Pyrococcus. 3. From comparison of gene ordering within the UDP-GlcNAc biosynthesis gene cluster, it is shown that phylogenetic distance between P. horikoshii and A. pernix is closer than that between P. horikoshii and S. tokodaii. 4. When compared the amino acid sequences of the gene family, functionally similar genes are consisting a phylogenetic cluster. But when compared the nucleotide sequences, genes from same species are consisting a phylogenetic cluster. These results indicate that nucleotide sequences were developed with retaining features of the host species, but the translated amino acid sequences were developed under pressure of the function. 5. Other features, like presence or absence of plasmid, transposable elements, duplication and recombination, also provide the important information on evolution. These analyses shown above indicate detail analysis is necessary for recognition of the recent history of genomic evolution.

(Keywords) Archaea, genomic sequence, evolution, comparison, gene cluster, plasmid, integration, recombination


アーキアに見いだされる種々の進化過程
河原林 裕
九州大学大学院農学研究院 産業技術総合研究所・健康工学研究部門
Email: kyutaka@agr.kyushu-u.ac.jp

はじめに

  当時NIH研究所の受容体部部長であったJ. C. Venter博士らのグループは、脳から抽出したRNAを用いて構築したcDNAライブラリから無作為に選択した2375個のクローンの末端塩基配列解読結果を1992年に発表した[1]。その当時の生物学研究者の反応は、「目的の遺伝子をクローニングするのなら判るが、ランダムに選んだcDNAクローンの塩基配列を解読するだけなら研究ではなくて単なる作業じゃないか。」というものが主なものだったのではないか。その後、Venter博士はNIHを離れてTIGR(The Institute for Genomic Research)という研究所を設立し、1995年にHaemophilus influenzae Rdという微生物の1,830,137塩基対長のゲノム全塩基配列を公表した[2]。これは、独立に生存する生物が有するゲノムの全塩基配列を解読した初めての成果の公表であった。その後の約20年間で、塩基配列解読技術は格段に進歩し、次世代シーケンサと呼ばれる最新の自動塩基配列解読装置は、大量の塩基配列を短時間の内に、効率的に、さらに安価に解読することを可能にした。最近では、ゲノムサイズの塩基配列の解読でも、昔のような特別の施設や人員を必要とせず、ごく一般的研究者が誰でも実行することが可能なものになりつつある。このような時代の次に求められるのは、これらの大量のデータから意味の有る情報をいかに見出すことが出来るかである。中でも、非常にユニークな性質を多く持ち、さらに真正細菌と真核生物の両方に類似した性質も持つアーキアの進化を知ることは、生命誕生やその後の生命進化を考えるうえで大きな意味があると考えられる。そこで、本稿ではアーキアのゲノム情報から見出されてくる進化に関する情報解析の実例について述べていきたい。

1. アーキアとは?

     まず簡単にアーキアについて解説しておきたいと思う。アーキアという生物群が独立のものとして認知される以前、生物は遺伝物質の本体である染色体DNAを覆う核を有しているか否かによって、「真核生物」と「原核生物」とに大きく分類されていた。Woeseらは、この「原核生物」の分類に当時得られてきた分子生物学的知見である16S rRNA分子の塩基配列による比較を行ったところ二つに分類できることを示した[3]。16S rRNA分子の塩基配列は、それまでに見出されていた「原核生物」微生物の性質や系統関係との相関が認められたことから「アーキア(当時はアーキバクテリア)」という生物群が1977年に提唱された。その後、このアーキアを研究対象として生化学的・分子生物学的研究を含む数多くの研究成果が、アーキアの特徴を明らかにしてきている。その特徴の幾つかを下にまとめてみる。
・ 細胞を覆う膜が脂質一重膜である。
・ DNAの複製機構は、真核生物と類似している。
・ 遺伝子の転写制御機構も、真核生物と類似している。
・ RNA遺伝子中にイントロンを有する。
  さて、これらの特徴を有するアーキアの全ゲノム遺伝子情報も幾つかが明らかになってきている。これらの遺伝子情報を効率的に比較解析することで、過去のアーキアが経験した進化の痕跡をたどることができるのではないか?その一端について以下で示してみたい。


図 1.  Sulfolobus属間(A)及びPyrococcus属間(B)での相同遺伝子の位置関係

2. ゲノム全体の遺伝子位置関係から見えてくる進化過程

    さて、全塩基配列が解読された微生物のゲノム全体を比較する際に、お互いの相同な遺伝子の交点位置にドットを記載していく、ドットマトリックス解析という手法が有る。図1A.に示すように、同じSulfolobus属であるS. tokodaii[4]とS. solfataricus[5]であっても、遺伝子全体の並び方は相互に全く異なっている。ましてや属が異なる微生物同士であれば、ゲノム全体の遺伝子並び順が保存されている場合は非常に少ない。しかし、図1B.に示す様に、Pyrococcus属のP. horikoshii[6]とP. abyssi[7]を比較すると、長い線が見えてくる。この事は、両アーキアのゲノム上での遺伝子の位置関係がよく保存されていることを示す。さらに、線が原点からは右上がりだが、中に2か所線が不連続になっている部分が見える。この事は1回目の大きな転座の後に2回の転座が起きている事を示している。中央aの領域では向きは変化しなかったがその領域が移動した事を示す。また、右下bの領域は、場所を移動せずに領域の向きが逆向きに変化したことを示している。以上の様にPyrococcus属のこの2種のアーキア間では、大きなゲノムの転移・転座が3回起こっていることが、両アーキアのゲノム遺伝子位置関係の比較解析から見えてくる(図2)。逆に言うと、この両アーキアがそれぞれ独立したアーキア種になる間に、たった3回の大きな転位・転座しか起こらなかった事を示す。つまり、この両アーキアは非常に近縁で、ごく最近までほぼ同一のものであったとも考えられる。一方、同じPyrococcus属のP. furiosus[8]とはこの両アーキアともゲノム全体に渡る遺伝子位置関係の保存は見いだされてこない。このことは、同じPyrococcus属でありながら、P. horikoshiiP. abyssiはP. furiosusよりも類縁性が高いことを示している。


図 2.  P. horikoshiiP. abyssi両ゲノム間で起こったと推定されるゲノム転移及び転座に関するスキーム

3. 遺伝子クラスターの構成から見えてくる進化過程

   一方図1A.では、2種のSulfolobus属アーキア間では、ゲノム全体についての遺伝子位置関係は保存されていない事を示すと述べたが、この図をよく見て頂きたい。幾つかの短い線の存在に気づかれると思う。ゲノム全体の遺伝子位置関係に大きな変動が起こっている際にも、並び順が保存されている比較的短い遺伝子領域が存在するという事である。例えば、Pyrococcus属では、図3.に示すようなMannosylglycerate合成遺伝子クラスター[9]が3つの種の間でよく保存されていることが見出されてきた。位置関係だけでなく、クラスターを構成している個々の遺伝子のアミノ酸長も類似しており、アミノ酸配列の相同性も非常に高く、個々の遺伝子配列の類似性から遺伝子の並び順までがこの遺伝子群ではよく保存されていることが判る。P. horikoshiiとP. furiosus間及びP. abyssiとP. furiosus間ではゲノム全体の遺伝子位置関係が大きく変動しながらも、この遺伝子クラスターの保存度だけが高いことから、この遺伝子クラスターはPyrococcus属アーキアにとって非常に重要な遺伝子群であるのではないかと思われる。ちなみにこの遺伝子群が合成するMannosylglycerateは、周囲の環境温度や塩濃度が変化した際に細胞を保護する役割が有ると言われている。深海から単離されたPyrococcus属アーキアには、温度や塩濃度の変化に耐えてきた歴史をゲノム上に記録しているのではないかと推定される。
   一方、属を超えたアーキア間でも遺伝子クラスターとして位置関係が保存されている遺伝子群が見いだされてきた。図4.に示したTDP-Lラムノース合成経路[10]に含まれる4つの遺伝子は、属が異なるP. horikoshiiA. pernixS. tokodaii各アーキアで遺伝子クラスターとして保存されている。このLラムノースは、病原菌の細胞表面に存在する糖鎖の基底部に存在し、病原性の発現と密接な関連の有る糖だと知られており、この糖の合成を担う酵素は病原菌に対する医薬品開発のターゲットともされている。この様にLラムノースを合成する遺伝子群が、属を越えて普遍的にアーキアのゲノム中にクラスターとして保存されていることは大変不思議なことである。アーキアは病原菌なのであろうか?これらの酵素が実際に機能しLラムノースが合成されることも確認してきたが、この結果については別稿に譲るが、これらのアーキアに普遍的に保存されているUDP-Lラムノース合成遺伝子クラスター内での各遺伝子位置と遺伝子の向きを図4に示した。P. horikoshiiでは、AからDまでの4つの遺伝子全てが同一方向を向いており、AからDの順に並んだ形でクラスターを構成している。一方、A. pernixの当該遺伝子クラスターでは、4つの遺伝子の向きは同一であるが、CとDの遺伝子の位置が逆になっている。さらに、S. tokodaiiが有するクラスターでは、A・B・D遺伝子は同一方向を向いているがC遺伝子は逆向きに位置している。並び順もC->D->A->Bと遺伝子の機能と全く異なった並び順となっている。
   ゲノム配列を解読した情報からはここまでの情報しか得られないが、この情報から過去にこれらのゲノム中で起きたであろうゲノム組み換え過程を推側することができる。AからDまでの遺伝子がその機能順に同一方向に並んでいるP. horikoshiiの遺伝子クラスターの形が、最も基本で合目的的だと考えられる。このP. horikoshiiが有する遺伝子並び順を元の遺伝子クラスターだと仮定してみよう。すると、A. pernixの遺伝子クラスターは、図5に示すようにCとDの遺伝子の位置を入れ替えただけで構築することが可能である。最低のゲノム組み換え回数は1回で可能だということである。一方、P. horikoshiiが有する遺伝子クラスターからS. tokodaiiが有する遺伝子クラスターが構築されるには、まず2個ずつの遺伝子AとBの並びがCとDの並びと入れ替わった後に、C遺伝子が向きを変える必要が有る。最低でも2回のゲノム組み換え過程が必要だということが判る。これらの、本遺伝子クラスター構成の比較から、P. horikoshiiA. pernixとの間には組み換えが1回、P. horikoshiiS. tokodaiiとの間では2回の組み換えが起こっていると考えられることから、P. horikoshiiA. pernixのゲノム間の距離の方がP. horikoshiiS. tokodaiiとの距離よりも近いと判断出来る。


図 3.  Pyrococcus 属アーキアに保存されているMannosylglycerate合成遺伝子クラスター
各遺伝子のID及びアミノ酸長、並びにP. horikoshiiの対応遺伝子との相同性を示す。
MPGS: Mannosyl-3-phoglycerate synthase,
MPGP: Mannosyl-3-phosphoglycerate phosphatase, PMI/Man1P-GTase: Phosphomannose isomerase/ Mannose-1-phosphate guanylyltransferase, PMM: Phosphomannomutase


図 4.  3種のアーキアに見出されたTDP-Lラムノース合成遺伝子クラスター


図 5.  TDP-Lラムノース合成遺伝子クラスターにおける推定進化過程

4. 遺伝子相同性比較から見えてくる進化過程


   前述のTDP-Lラムノース合成経路での初発酵素は、グルコース1リン酸とTTPを結び付けて、TDPグルコースを合成する反応を触媒する酵素である。この様に糖1リン酸とヌクレオシド3リン酸を結合する酵素をコードすると推定される遺伝子は、表1に示すようにこれら3種のアーキアのゲノムから、各々6個、5個、7個見いだされてくる。では、これらの遺伝子ファミリー全体で相同性比較を行うと結果はどうなるであろうか。

表1.  3種のアーキアゲノム中で見いだされる 糖1リン酸ヌクレオチド転移酵素



   まず、各遺伝子産物であるタンパク質のアミノ酸配列を用いて相同性比較を行ったところ、図6に示すように、異なるアーキア由来の遺伝子産物が一つのクラスターに含まれてきた。3種のアーキア由来の遺伝子産物すべてが含まれるクラスターが4組、2種類のアーキア由来の遺伝子産物から構築されるクラスターが3組構築されてきた。この結果は、各相同遺伝子の遺伝子産物は、アミノ酸配列の相動性が高いことから機能面での類似性も高く、各アーキアの中で似た機能を担っているものがクラスターを形成していると思われる。


図 6. アミノ酸配列から予測した系統樹

   一方、この同じ遺伝子群の各遺伝子の塩基配列を用いて比較解析してみたところ、3種のアーキア由来の遺伝子から構成されるクラスターは2つしか見いだされなかった(図7)。アミノ酸配列を用いた場合と異なるのは、その他のクラスターでも同じ生物由来の遺伝子fが比較的一つのクラスターに含まれるという事である。3種のアーキアのゲノム配列は、各々GC含量も異なっているので、塩基配列から見ると同一アーキア種に存在する遺伝子同士の方がより類縁性が近いということを示している。


図 7. 塩基配列から予測した系統樹


   これら二つの結果を総合すると、これらのアーキア種の中で類似しているが異なる機能を有する遺伝子を創出する際に、まず遺伝子は重複等によりゲノム中で数を増やし、その後変異を繰り返す際に機能に適したアミノ酸配列が選択されることで分化が進行すると思われる。この分化・進化の際の塩基配列の変異においては、コドンの使い方や塩基配列の特徴はその種固有の特徴を残していると思われる。しかし、機能面での制約や圧力によって出来上がっていくタンパク質は、求められている機能に適したアミノ酸配列が選択されるのではないか。その結果、塩基配列から見ると一つの種由来の遺伝子は類似しているが、アミノ酸配列から見ると機能が似た遺伝子産物のアミノ酸配列は種を越えて類縁性が高いのだと思われる。言い換えると、塩基配列の変化が先行するが、機能的な選択圧の影響で一定のアミノ酸配列が選択される様にこれらの遺伝子群は進化してきたのだと思われる.

5. ゲノム情報全体の特徴から見えてくる進化過程

   次世代シーケンサが普通に使われるようになって、微生物のゲノム配列を決定することは、以前に比べ時間も労力も資金も必要としないものとなってきた。しかしながら、如何に容易に決定できるとはいえ、ある微生物の塩基配列を決定する場合、その決定された塩基配列はある時点でのゲノムの塩基配列なのである。過去から現在まで長い時間過程の中で変化し続けているゲノム配列の単なる或る瞬間のスナップショットでしかないのではないか。しかし、この情報からも過去の進化の過程を紐解くことが出来る場合が有るのではなかろうか。そのような観点で、ゲノム配列を読み解いてみたい。
    すでにゲノムの全塩基配列が決定されているS. tokodaiiは、染色体ゲノムDNAの他にプラスミド状のDNAを有していない。しかし、同じSulfolobus属のSulfolobus sp. NOB8H2株は41,229塩基対長のプラスミドpNOB8を有している[11]。このプラスミド上には、52個の遺伝子の存在が推定されている。では、これらの遺伝子はプラスミドを有しないS. tokodaiiではどうなっているのか?全て消失してしまっている事も想像される。しかし、同属の他の株ではプラスミドの形で保持されていることから、この宿主アーキアにとってプラスミド由来遺伝子が何らかの役割を果たしていることが想像される。そこで、このプラスミドpNOB8上に見いだされた遺伝子がS. tokodaiiのゲノム中に存在するか検索してみた。その結果を表2.に示すが、52個のプラスミド由来遺伝子の内37個については、S. tokodaiiのゲノム中に存在していることが見いだされた。さらにゲノム上に見出された遺伝子のゲノム上での位置は連続しているわけではなく、ゲノム上に分散して存在していた。また表2に示すように、プラスミド上では1コピーであった遺伝子がゲノム中では複数コピーに遺伝子数が増幅しているものも見いだされた。元々ゲノム上に分散して存在していた遺伝子を寄せ集めて一つのプラスミドという単位を構築することは困難なことから、この結果は祖先種が保持していたプラスミドがゲノムの中に組み込まれ、その後組み換えや重複が起こったものだと推測される。

表 2. pNOB8プラスミド中のORFのS. tokodaiiゲノム中での位置と遺伝子数

    この重複している遺伝子がS. tokodaiiでは、他の2種類のアーキアP. horikoshiiA. pernix[12]に比べて多く見出されてくる。表3.に示すように、1つの遺伝子ファミリーを構成する遺伝子数の最大が12個と、他の2種類のアーキアに比べて大きい。さらに2から8個のファミリー遺伝子から構成される類似遺伝子のファミリー数も他の2種のアーキアに比して多い。この事はこれらのアーキアの中でもS. tokodaiiでは遺伝子の重複が非常に高頻度で起こったことを示している。さらに表には示していないが、お互いの遺伝子長の差が全長の10%以下、相同領域が全遺伝子長の90%以上、同一アミノ酸の割合が全タンパク質の90%以上というほぼ同一の遺伝子から構成される遺伝子ファミリーが22組見いだされてくる。このファミリーには総計68遺伝子が含まれる。この中にはtransposaseやIS proitenの様なゲノム上を移動するエレメントに含まれる遺伝子も有るが、その他の遺伝子も見いだされてくる。この事は、このS. tokodaiiゲノム中で、ごく最近(今)もゲノム領域の重複が起こっていることを示している。

表 3. 3種のアーキアが有する重複遺伝子

    各アーキアが有する繰り返し配列だが、図 8.に示すように、短い繰り返し単位(SR配列)が多数繰り返している隣に長い繰り返し配列(LR配列)が存在するタイプAの繰り返し配列は、アーキア3種全てに見出される。また、このタイプAの繰り返し配列からLR配列が欠損したタイプBの繰り返し配列は、P. horikoshiiA. pernixで見出されてきた。一方、タイプCの長い繰り返し配列は、A. pernix及びS. tokodaiiにだけ見出されてきた。このタイプCの繰り返し配列の種類は、A. pernix では、300塩基対長のものが1種類見出されただけだが、S. tokodaiiでは、長さが350から1780塩基対までの6種類もの繰り返し配列が見いだされてきた。 以上の特徴を総合すると、S. tokodaiiのゲノムは、以下の進化過程を経てきたと推定される。(図9.参照)
   A. 祖先種は、ゲノムとプラスミドを有していたものと推定される。
   B. 次にプラスミドがゲノム中に挿入されたと思われる。
   C. その後のゲノム全体の組み換えにより、プラスミド領域がゲノム中に分散したと思われる。
   D. プラスミド中の特定の領域がゲノム上で重複して、プラスミド由来遺伝子のコピー数が増幅したと思われる。
   E. その後、繰り返し配列がゲノム中に挿入されると共に、ゲノムの特定の領域が重複により増幅していると思われる。

   この様な進化の過程を経て現在のS. tokodaiiゲノムが形作られてきたのではないかと推定される。これら現在のゲノム情報を丁寧に分析することで、微生物の過去の進化過程の痕跡も見えてくるのではないかと思われる。



図 8. 3種のアーキアが有する繰り返し配列
カッコ内の数字は繰り返しの回数を示す。



図 9. 推測されるS. tokodaiiゲノムの進化過程
A. ゲノム(青)プラスミド(赤)、B. プラスミドのゲノムへの組み込み、C. プラスミド領域の転移、D. プラスミド領域の増幅、E. 繰り返し配列の挿入(緑)・ゲノム領域(黄)の増幅

6. まとめ

   長い進化の過程を経て形成されてきた或る微生物種の現在の形は、ゲノム情報として読み解く事ができる。しかし解読できるのは、長い進化の過程の中のほんの一瞬、現在のゲノムの配列だけである。ただ、この情報を有効に利用することにより、その微生物が過去に経てきた進化の過程をあぶりだすことができるのではないかと思われる。今後は次世代シーケンサによる塩基配列の解読がこれまでよりも、安価で高速な塩基配列の解読を提供していくので、ゲノム全長の塩基配列解読がごく一般的な研究となってくるであろう。その時には、塩基配列解読が高価で時間も労力も必要であった時とは異なり、ゲノムの時間経過による変化のような進化過程を直接読み解くゲノム解読や、生育地によるゲノム配列の適応を読み解く時空間的ゲノム解読が可能になるのではないか。今後のゲノム解析の進展に期待したい。

謝辞


    生命の起原および進化学会におけるシンポジウムのまとめとして記しました拙稿に示した解析結果は、当研究室で共に研究に励んでくれました博士研究員・大学院生・学生の皆さんの努力の結果です。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

参考文献

1. Adams, M. D., Dubnick, M., Kerlavage, A. R., Moreno, R., Kelley, J. M., Utterback, T. R , Nagle, J. W., Fields, C. and Venter J. C., Sequence identification of 2,375 human brain genes. Nature. 355, 632-634, (1992).
2. Fleischmann, R. D., Adams, M. D., White, O., Clayton, R. A., Kirkness, E. F., Kerlavage, A. R., Bult, C. J., Tomb, J. F., Dougherty, B. A., Merrick, J. M., et al. Whole-genome random sequencing and assembly of Haemophilus influenzae Rd. Science. 269, 496-512, (1995).
3. Woese, C. R., and Fox, G. E. Phylogenetic structure of the prokaryotic domain: the primary kingdoms. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 74, 5088-5090 (1977).
4. Kawarabayasi Y., Hino Y., Horikawa H., Jin-no K., Takahashi M., Sekine M., Baba S., Ankai A., Kosugi H., Hosoyama A., Fukui S., Nagai Y., Nishijima K., Otsuka R., Nakazawa H., Takamiya M., Kato Y., Yoshizawa T., Tanaka T., Kudoh Y., Yamazaki J., Kushida N., Oguchi A., Aoki K., Masuda S., Yanagii M., Nishimura M., Yamagishi A., Oshima T., and Kikuchi H. Complete genome sequence of an aerobic thermoacidophilic crenarchaeon, Sulfolobus tokodaii strain7. DNA Res. 8, 123-140 (2001).
5. She Q., Singh R. K., Confalonieri F., Zivanovic Y., Allard G., Awayez M. J., Chan-Weiher C. C., Clausen I. G., Curtis B. A., De Moors A., Erauso G., Fletcher C., Gordon P. M., Heikamp-de Jong I., Jeffries A. C., Kozera C. J., Medina N., Peng X., Thi-Ngoc H. P., Redder P., Schenk M. E., Theriault C., Tolstrup N., Charlebois R. L., Doolittle W. F., Duguet M., Gaasterland T., Garrett R. A., Ragan M. A., Sensen C. W., and Van der Oost J. The complete genome of the crenarchaeon Sulfolobus solfataricus P2. Proc Natl Acad Sci U. S. A. 98, 7835-7840 (2001).
6. Kawarabayasi Y., Sawada M., Horikawa H., Haikawa Y., Hino Y., Yamamoto S., Sekine M., Baba S., Kosugi H., Hosoyama A., Nagai Y., Sakai M., Ogura K., Otsuka R., Nakazawa H., Takamiya M., Ohfuku Y., Funahashi T., Tanaka T., Kudoh Y., Yamazaki J., Kushida N., Oguchi A., Aoki K., and Kikuchi H.. Complete sequence and gene organization of the genome of a hyper-thermophilic archaebacterium, Pyrococcus horikoshii OT3. DNA Res. 5, 55-76 & 147-155 (1998).
7. Cohen G. N., Barbe V., Flament D., Galperin M., Heilig R., Lecompte O., Poch O., Prieur D., Quérellou J., Ripp R., Thierry J. C., Van der Oost J., Weissenbach J., Zivanovic Y., Forterre P.. An integrated analysis of the genome of the hyperthermophilic archaeon Pyrococcus abyssi. Mol Microbiol. 47, 1495-1512 (2003).
8. Robb F. T., Maeder D. L., Brown J. R., DiRuggiero J., Stump M. D., Yeh R. K., Weiss R. B., and Dunn D. M. Genomic sequence of hyperthermophile, Pyrococcus furiosus: implications for physiology and enzymology. Methods Enzymol. 330, 134-157 (2001).
9. Empadinhas N., Marugg J. D., Borges N., Santos H., and da Costa M. S. Pathway for the synthesis of mannosylglycerate in the hyperthermophilic archaeon Pyrococcus horikoshii. Biochemical and genetic characterization of key enzymes. J. Biol. Chem.. 276, 43580-43588 (2001).
10. Zhang L., al-Hendy A., Toivanen P., and Skurnik M. Genetic organization and sequence of the rfb gene cluster of Yersinia enterocolitica serotype O:3: similarities to the dTDP-L-rhamnose biosynthesis pathway of Salmonella and to the bacterial polysaccharide transport systems. Mol Microbiol. 9, 309-321 (1993).
11. She Q., Phan H., Garrett R. A., Albers S. V., Stedman K. M., and Zillig W. Genetic profile of pNOB8 from Sulfolobus: the first conjugative plasmid from an archaeon. Extremophiles. 2, 417-425 (1998).
12. KawarabayasiY., Hino Y., Horikawa H., Yamazaki S., Haikawa Y., Jin-no K., Takahashi M., Sekine M., Baba S., Ankai A., Kosugi H., Hosoyama A., Fukui S., Nagai Y., Nishijima K., Nakazawa H., Takamiya M., Masuda S., Funahashi T., Tanaka T., Kudoh Y., Yamazaki J., Kushida N., Oguchi A., Aoki K., Kubota K., Nakamura Y., Nomura N., Sako Y. and Kikuchi H. Complete Genome Sequence of an Aerobic Hyper-thermophilic Crenarchaeon, Aeropyrum pernix K1. DNA Res. 6, 83-101 & 145-152 (1999).

PAGE TOP
CLOSE THIS PAGE