Viva Origino Vol.40 No.4
「火星での生命探査計画」

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山岸明彦
(東京薬科大・生命科学)

       火星は地熱活動が停止し、ほとんど死んだ惑星である。1976年に実施されたViking計画では、3つの生命探査実験が行われた。そのうちの2つの実験では、生命反応は検出されなかったが、3番目の実験では生命活動の可能性のある反応が検出された。しかし、有機物を検出する実験で、有機物が検出感度以下であったことから、火星には生命は存在しないと結論された。その後、有機物検出方法の再検討が行われ、Vikingの有機物検出感度は極めて悪いことが明らかとなってきた。そこで、現在火星で進行しているMSL(Mars Science Laboratory: Curiosity)の計画では、再度有機物の探査が予定されている[1-4]。
 火星の環境は、低温、低大気圧(地球の約0.7%)で過酷であるが、地球の微生物を火星環境に置くならば、かなりの期間、生存可能で有ることもわかっている[1-4]。唯一、紫外線強度は大変つよく、地球上でもっとも紫外線耐性の高い微生物であっても、数分で死滅する。しかし、紫外線は極薄い皮膜によっても遮蔽される。火星表面でも、数cmの土壌に覆われれば十分に生存可能な条件となる。また、火星表面でメタンが存在する可能性が報告された。その測定の信頼性に関する議論が続いており、まだメタンの存在が確定しているわけでは無いが、もし火星表面にメタンが存在すれば、それを利用して生育するメタン酸化菌の生育を支える条件が誕生する。また、ごく最近(数年の間に)水が流れたのではないかと推定される場所が複数箇所見つかっており、火星地下には液の水が存在する可能性もある[1-4]。
 宇宙科学研究所の研究者を中心として、MELOS(Mars Exploration with Lander-Orbiter Synergy)という火星探査計画の準備がすすんでいる。この中で、JAMP(Japan Astrobiology Mars Project)と言う計画で火星での西経探査を計画している[1-4]。この計画では、蛍光顕微鏡をローバー(表面探査車)に搭載して、火星表面で微生物の蛍光顕微鏡撮影を行う計画である。
 火星に生物が現在いたとして、どのような生物であるのかは分からない。そこで、できるかぎり生命の定義あるいは性質に基づいた検出を計画している。また、火星生物はおそらく地球の微生物とかなり似た形態(球状あるいは棒状)と大きさ(1μm前後)なのではないかと推定している。また、細胞の主成分は有機物で形成されているであろうと推定している。
 例えば、疎水成膜を透過することが出来る色素で染色され、疎水成膜を透過することが出来ない色素で染色されないならば、それは疎水成膜で囲まれている事がわかる。また、そのとき有機物を染める色素をもちいれば、疎水成膜に囲まれているのは有機物であることも分かる。さらに、酵素反応で反応して初めて蛍光を発する色素を用いる事により、代謝を担う酵素の存在を推定する。こうした色素の組合わせによって、かなり正確に「生命」らしい構造を見分けることが出来るのではないかと推定している[1-4]。
 火星に送った探査車は、地球からの指示にしたがって土壌を採集して自動的に、蛍光顕微鏡観察を行う。画像は自動的に解析され、可能性の高い順に地球に転送される計画である。
 もし、蛍光顕微鏡観察によって「生命」らしき構造が発見された場合には、次の探査計画ではアミノ酸分析を行う事を提案している。アミノ酸分析によって、地球生物と同様の20種のアミノ酸が検出された場合には、1)地球生物が40億年前から現在にいたるいつかに火星に移動した可能性、2)火星で誕生した生命が40億年前に地球に移動した可能性、3)なんらかの理由によって地球生命と火星生命が独立に同じアミノ酸種を選択した可能性の3つの可能性が考えられる。また、アミノ酸種が地球生命と異なる場合には、地球以外の生命が疑われる。隕石等で検出されているアミノ酸種に類似している場合には、そのアミノ酸は生命体では無い可能性が高い。同様な解釈は、アミノ酸の光学異性を分析することからさらに確かめることもできる[1-4]。
 今後、様々な検討が順調に進んだ場合には2020年代初頭に探査機を打ち上げることを目指している。打ち上げられた探査機は1年ほどで火星に到着し、その結果を地球に送信することが期待される。

【参考文献】
1. 山岸明彦 第17章「火星における生命探査」、山岸明彦編「アストロバイオロジー」、化学同人、212-221 (2013)
2. 山岸明彦、「火星での生命探査計画」。日本惑星科学会誌「遊星人」20, 108-116 (2011)
3. 山岸明彦、「火星における欧米の生命探査計画とMELOS計画での生命探査」、地質学雑誌 118, 675-682 (2012)
4. Yamagishi A., Yokobori, S., Yoshimura, Y., Yamashita, M., Hashimoto, H., Kubota, T., Yano, H., Haruyama, J., Tabata, M., Kobayashi, K., Honda, H., Utsumi, Y., Saiki, T., Itoh, T., Miyakawa, A., Hamase, K., Naganuma, T., Mita, H., Tonokura, K., Sasaki, S., and Miyamoto, H. Japan Astrobiology Mars Project (JAMP): Search for microbes on the Mars surface with special interest in methane-oxidizing bacteria. Biological Sciences in Space 24, 67-82 (2010)




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