招待講演2

極限環境下の生命から共生・共進化

○加藤千明
独立行政法人海洋研究開発機構、海洋・極限環境生物圏領域
  極限環境とは、高温または低温、高圧、高塩濃度、高アルカリ性、高酸性、乾燥、有機溶媒、無酸素など、私たち人間や私たちのまわりに生きている生き物ではとても生きられないような環境をいう。しかしながら、近年の研究により、そうした環境下にも私たちとは別の仕組みを持った、多種多様な生き物たちが暮らしていることが明らかとなってきている。極限環境下の生命の発見は、いまから約40年前、1970年代に始まる。この時期に、日米でほぼ同時に、それぞれ、温泉環境から高温を好む微生物、好熱菌、と、高いアルカリ性を好んで生息する、好アルカリ性菌が発見された。これらの微生物は、私たちではとても生きていけないようなそうした極限環境下によく適応しており、むしろ私たちの生息環境である、中温、中性域では生きていけないことが示唆された。それを機縁として、こうした極限環境下に適応した生き物たちの探索がはじまり、深海や地殻内、南極や北極といった低温域、果ては、塩湖や砂漠、有毒の有機溶媒中といった環境にも多くの種類の生き物たちが生きていることが報告された。こうした生き物たちを総称して「極限環境生物」と呼ぶ。
  極限環境という世界は、実は地球が形成され、そして源初の生命が誕生したといわれている38億年前は、ごく普通の世界であった。むしろ酸素が必要であるという生き方の方が特殊で、これは22億年前の酸素イベントより後の話となる。従って、極限環境生物の研究は、そのまま生命の起源とか初期進化の謎の解明につながっていくと考えられている。
   極限環境微生物学が発祥した1970年代の後半に、深海調査から、前世紀最大の生物学上の発見のひとつといわれている画期的な発見がなされた。それは、東太平洋海盆、ガラパゴス沖で見つけられた海底熱水噴出現象とそのまわりを取り囲む奇妙な生物大群集の発見である。熱水孔付近は、酸素濃度が希薄でメタンや硫化水素といった還元的な物質が大量に存在している。
   ここで発見された生物群集(下のイラスト)は、環境中のこうしたガスを体内に取り入れて、体の中に生息する共生微生物によるメタン酸化やイオウ酸化といった反応から得られるエネルギーを唯一のエネルギー源として生きていることが明らかとなり、光合成生物と対比して「化学合成生物」といわれた。本講演では、これらの共生微生物がどういったプロセスで細胞内オルガネラへと共進化していくのか議論したいと考えている。

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