一般講演2

海底熱水噴出孔環境下で機能性分子の出現を目指す

今井栄一
長岡技術科学大学 生物系
  生命誕生に至る過程は,最初は単純な有機化合物から出発してより複雑な化合物へと変化し,やがて自己複製機能や代謝機能を持ったものが自然発生的に生まれたとする考え方が提唱されてきた.これを化学進化過程と呼び,原始地球上でこのような化学反応が進行する場をどこに求めるか,その候補となるのが海底熱水噴出孔近傍の熱水環境である.
  海底熱水噴出孔の熱水環境を想定した2400 mの深海底の圧力と250 ℃の熱水が噴き出す装置は容易に造ることができる.これを進化フローリアクターと呼び,1997年から実験を開始した.熱水が冷水中に噴き出す反応の場を造り,熱水と冷水との界面に大きな温度勾配が存在する非平衡解放系の反応装置である.この装置を使ってグリシンオリゴマーの生成を確認したが,熱水が噴き出す流速を変えると熱水と冷水の界面に生じる温度勾配が変わり,熱水の冷却速度の変化として現れる.流速が速いときのグリシンオリゴマーは遅いときに比べて生成の立ち上がりが早く現れた.4種類(Gly, Ala, Val, Asp)のアミノ酸溶液ではいくつかの生成物群を形成することも判明した.生成物のパターン化を推進するものは,一旦できた生成物が次の反応に介在する分子選択能を有することに帰結できる.海底熱水孔近傍で生起する化学反応は,生成的であると同時に選択的であることを示す.
  金属イオンを添加した修飾海水を反応出発溶液に選び,120分の運転の後にグリシンオリゴマーの熱分解を抑制する機能を持った化合物が得られた.さらに熱水噴出孔により近い環境を造るために,高温チャンバー内に玄武岩を入れるとグリシン2量体の生成量が増大することも分かった.昨年からは熱水の噴き出す天地を成立させた新しいリアクター(右図)が稼働した.実際の噴出孔と同じ向きに熱水は下から上に噴き出し,熱水が冷やされたことによって反応物が析出しても下に溜まって,流路内が詰まることも防げると考えている.これにより長時間の運転が可能となり,有機物-鉱物-熱水相互作用に着目した検証実験を進めている.

図: 稼働中のフローリアクターの構成

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